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2005年09月11日
iPodの 「 today ! 」 戦略にみる、購買意欲のピーク到達過程の変遷 
日曜コラムです。こんばんは。
米国時間の9/7、Appleの隠し玉とも言える 「iPod nano」が発表に なりました。
1.5インチのカラー液晶を搭載していながら、6.9mmという薄さを実現したこと、
フラッシュメモリ4GBも積み、なおかつ27,800円という価格を実現していることは、
多くの消費者を驚かせたことでしょう。
実は日本時間の9/8、つまりほとんど同日に、Sonyが新製品のネットウォークマン
「Aシリーズ」を発表 しています。1.8インチ20GBのHDDを搭載したNW-A3000、
1インチ6GBのHDDを搭載したNW-A1000、そして「香水瓶」と呼ばれた健闘中の
「Eシリーズ」にメモリ容量アップなどの改良を加えた NW-A605/A607/A608も準備し、
恥も外聞も捨ててiTunesの良い点の吸収を試みたという
「CONNECT Player」まで用意して、iPodの新製品を万全の体制で迎え撃つハズでした。
ところが、ふたを開けてみると、人々の注目はiPod nanoに集中し、結果的に
Sonyの威信を賭けたAシリーズは非常に影の薄い存在になってしまっています。
この2社の新製品を隔てているものは何でしょう?
「製品自体の出来?」 それはいろいろ意見が分かれるところと思います。
「価格差?」 それは確かにあるでしょう。
しかし、もう1つ異なる点があります。それは「出荷時期」の違いです。
みなさんも良くご存知の、iPodの「today」戦略 です。
■大阪てきとー日記「ソニーの大きな賭け?」
http://kazz7.air-nifty.com/tekito/2005/09/sony_walkman.html
あと重要(だと思っている)な事は、iPod nanoはもう買えることです。
ウォークマンAが欲しい人はあと2ヶ月も待たなければなりません。
iPodシリーズ、いや、Appleの製品が徹底的に貫いてる「today」戦略、
これが大当たりしている点は、私も凄く気にしています。
Appleはジョブズ氏の製品発表のスピーチを聞かせたあと、必ずと言ってよいほど、
「この魅力的な新製品は、『今日』から手に入る」
(だから、このイベントの帰りにでも買っていってくれ)
という類のメッセージを出します。iPodは延々とこの「today」戦略を尊重し、
実際に新製品の発売を開始できるその日まで、新製品についての情報を
徹底的に隠すやり方を貫いてきました。そして今回のiPod nanoでもその方法は
的中しています。新製品に期待を抱いた人々は、熱狂冷めやらぬ思いで新製品
に群がり、店頭で、ネット注文で、次々とiPod nanoを購入していったのです。
対照的に、SonyのAシリーズが取った戦略は、新製品の発表から2ヶ月以上後に
発売予定日を設定するというものでした。これは従来の家電業界の新製品発表
サイクルを踏襲したもので、それ自体には特に落ち度があるワケではありません。
しかしながら、Aシリーズに魅力を感じた人々にとって、この2ヶ月という期間はあまりにも
長すぎます。彼らが「Aシリーズ欲しい!」と思ったときのその情熱は果たして本当に、
2ヵ月後の 11/19 まで保ち続けていられるのでしょうか。
そうこうしているウチに、iPod nanoは次々に売り上げを伸ばしていきます。
「Aシリーズはまだ買えないけど、iPod nanoならもう買える」という事実は、
Aシリーズを欲している人にとっても強烈な誘惑として働くに違いありません。
ひとつ参考になる事例があります。昨年の8/19、「HDD搭載ビデオカメラ」の情報が
Victorから発表に なったとき、消費者はその詳細に強い興味を抱いたものです。
その製品は消費者を焦らして物欲を刺激するという「ティザー」戦略を取り、
1ヵ月後の9/14まで情報を小出しにしていきました。
果たして9/14、「Everio」と名づけられたその製品の 詳細が発表された とき、
消費者は既に 待ちくたびれていました。しかも9/14の発表で明らかになったことは、
「実際に発売されるのは 更に1ヶ月以上あと のこと」だという事実でした。
そして、そのEverioが実際に出荷を開始した11月初旬には、多くの人々は既に、
非常に冷静な目で製品スペックを見つめるモードに
変わっていました。「熱狂が購買を誘う」、そんな理想的な雰囲気は、
2ヶ月以上という「時(とき)」によって、押し流されてしまっていたのです。
商品を売りたいと思っている人(企業)にとって、
「時」を支配すること は、大変重要なことです。
消費者に対して、あるモノを「欲しい」と思わせるには、時間を掛けて情報を
植え付けることが必要となります。まず魅力を伝えないことには始まりません。
その一方で、情報を知ることで高まってきた「購買意欲」は、今度は時間を
掛けてゆっくりと減衰していきます。そう、冷静になって考える時間を与えることで、
消費者は一時の興奮を忘れていき、しまいには消費に対する興味も失っていくのです。
だからこそ、商品を発売する際には、この 「盛り上がり」と「冷め」のモデル
を理解し、盛り上がったところをピッタリと狙って商品を出荷し、それを今度は
冷めないうちに売りさばいていかなければなりません。商売はタイミングが命です。
ところが、こうしたデジモノ商品に真っ先に飛び付く層は、いまや強力な情報網を
その手中に収めています。そう、パソコンとインターネットです。自ら進んで情報を
欲しがり、実際にネットを使ってありとあらゆる情報を吸収する彼らは、商品の情報を
理解するために 長い時間を必要としません。すなわち、彼らにとっては、
商品の第一報を知ったその日が、盛り上がりのピークである
という言い方ができます。「Everio」が発表されたときも私はこう表現しました。
■2004/08/19 [ビクターの小型ムービーカメラ?!9/14に登場]
広告が出たことは1日で知れ渡り、その内容に関する論議は
3日でひと回りしてしまうのです。そんな中、ティザー広告の
「1ヶ月」という期間はあまりにも長すぎます
昔であれば、情報をオープンにしても、それがじわじわと浸透するまでに長い時間が
掛かりました。その時代なら、商品情報の発表後 1ヶ月~2ヶ月後 というのは、
消費者の「欲しい」がピークになる時期だと断言できたのかもしれません。
しかし、センセーショナルな製品発表と、威勢の良い「 today ! 」の掛け声によって、
消費者を一斉に購入行為に誘導するAppleの戦略が大当たりしていることは、
こうした商品購買意欲が ピークに達するまでの時間が異常に短くなっている
ことの表れなのではないかと、そう思えてなりません。
こうした商品の購買を牽引しているのは、ネットを使って自ら情報を引き出し、
検証しようとする アーリー・アダプタ たちです。彼らの「熱狂」を捉え、
「冷め」が襲ってこないうちに、ピークを狙い撃ちして商品を与える、そして
それを行うには、熱狂と冷めのサイクルを的確に捉えておかなければなりません。
もし情報ツールの急激な進化によって、その「熱狂」が昔とは比べ物にならないほど
急激な立ち上がりを見せ、その後はただ冷めを待つだけのサイクルを持つのだとしたら、
昔ながらの「1~2ヶ月前に製品発表を行う」手法は、実はとても非効率なのかもしれません。
今回、iPod nanoの購入に踏み切った方々は、まさに熱狂の最中(さなか)に在りました。
Appleお得意の「today!」戦略は、こうした急激な熱狂の立ち上がりを、余すところ無く
すくい取っていると言えるでしょう。一方のSonyの新ネットウォークマン「Aシリーズ」は、
これから何と2ヶ月以上も、その 「冷め」をもたらす「時」と戦っていく ことになるのです。
投稿者 CK : 2005年09月11日 23:59 | コラム
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▼ コメント ▼
No.1637 投稿者 : kazz7 2005年09月12日 16:05
こんにちは。いつも楽しみに読んでいます。
なんか今日はアクセスが多いなぁと思っていたら、CKさんのところで取り上げていただいていたんですね。
ちょっとビックリしました。(^_^;)
これからもよろしくお願いします。
No.1638 投稿者 : 三戻 2005年09月12日 18:42
また、楽画喜堂さんに・・・
波が来るぞ~
No.1639 投稿者 : yst 2005年09月12日 21:14
はじめまして。
大変興味深く拝見させていただきました。
Today!戦略の分析は、自分がもやもやと考えていたことを的確に指摘していて悔しいくらいです。
発表会で大々的に製品をアピールし、しかもその日のうちにその製品が買えちゃうってのは、やはりすごいやり方ですね。
これって、ふつうのBlogを書いているような『アーリーアダプタ』にとっても有効な戦略ですが、実のところ、発表会に参加するような『プロ』の報道関係者に対してもかなり効く戦略だと感じました。
発表会が開かれたその瞬間、その製品に付いて一番興味をかき立てられているのは会場にあつまった記者の面々だと思うのですよ。
発表会を聞き、その後の展示会/ハンズオンで実際に製品に触れることで高まった興奮で速報を書き、しかも帰りに実際に製品を買ってゆっくり詳細なレビューを書く。
詳細といっても、まだ興奮が冷めてないから大なり小なりバイアスがかかってる状態で書くので本当に情熱的な記事になる。情熱のあまり、発売初日にバラされるくらいですもん。
そして、そういう情熱、そういう興奮が記事を読む読者にも感染していく。
で、興味かき立てられた読者が、お店に走ったり、他のBlogを読んだり、自分なりのコメントを書く。
そうやって、あっという間にまるで集中砲火か波状攻撃のように情報がネットにあふれ、ますます衝動買い神経を刺激していく。
そんな感じで購買意欲の最大瞬間風速がどんどん大きくなっていくような気がします。
iPod nanoは、そういう意味でAppleの戦略に(いい意味で)まんまとはめられたような気がしますねぇ。
ウォークマンの方も、きれいなコンパニオンのおねえさんに持たせてニコニコさせてないで、取材に来た記者全員に実物を配るくらいのことをしたらよかったのかも。
さすがに発表会済んだらハイさよなら。では、記事を一つ書くのがやっと。できるだけ記事数を稼ごうと、機種毎に別記事にしたり涙ぐましい状況にならずに済んだのにと思ったりします。
ていうか、WalkmanBeanはどーなったんだ?
No.1640 投稿者 : もなりー 2005年09月12日 21:49
「発売を開始できるその日まで、新製品についての情報を
徹底的に隠す」ことがなぜアップルにはできるのか?が
不思議です。
ソニーとかはもう開発部署さえ派遣・外注のほうが多いので、
情報を発売日当日まで秘匿するのは難しいんじゃないかと思います。
派遣や請負だと(どうせそのうち契約も切られて関係なくなってしまうので)
会社への忠誠心もないですし。
アップルは社員が忠誠心あるってことですかねぇ。でも製造工場とかでは
アルバイト使ってるだろうし。
No.1641 投稿者 : iPod ニュース 2005年09月12日 22:15
>商品の第一報を知ったその日が、盛り上がりのピークである
なるほどなと、思いました。
このページをブックマークとソーシャルブックマークに入れておきます!
No.1642 投稿者 : ゴハァ 2005年09月12日 22:39
ん~興味深かったです
No.1644 投稿者 : yst 2005年09月13日 13:29
発売日まで、新製品の情報を徹底的に隠しおおせるAppleも不思議ですが、よく考えたら、SONYの新製品だって発表会まで十分隠せていたような気もします。
というか、『SONYの新製品、大予想』とか『SONYの新製品のウワサ情報』とかほとんど見かけないのは、単に自分の情報収集の偏りのせいでしょうか…
発表会前日まででなんか勝負がついてるような気がしなくもないです。
開発中の製品の情報を徹底的に隠すためのプロジェクト運営は、NE(日経エレクトロニクス)みたいな技術系経済誌の記事やWebなんかのインタビューでもその徹底振りがうかがえます。
多少は欧米企業の契約システムによる縛りもあるんでしょうが、協力会社含めて、『情報を徹底的に隠すこと』がもたらす利益のすごさがよくわかってきているってことなのかもしれません。
下手な情報リークは、時間に沿った興味のピークをぼやけたものにし、物欲のピークを拡散させることにつながり、翻って売り上げの減少につながりますから。
実際に製品を売るAppleのみならず、いっぱい売れることで広がるパイにありつこうという関連商品メーカだってそれはいやな展開だとわかっているのかもしれないです。
No.1654 投稿者 : Keizo 2005年09月14日 19:37
根っからのマカーなんで、Macで使えない奴なんてと少々嫉み気味に無視していましたが、
なるほどちょっと俯瞰して思いを巡らすとおっしゃる通りですね。
No.1655 投稿者 : 月 2005年09月15日 08:18
ウォークマンスティックのヒットを受けて小さな波を感じたソニーが、
(ひとまずは国内市場を狙おうと)次の手を模索しているタイミングで、
アップルが一気に王手をかけた形ですね。どちらかが合わせたのか、
それとも偶然かわからないけど、絶妙のタイミングです…。
シリコン系だけ見るとこの価格差は絶対的であり、インフラも整備され
てきたiPodの戦略的新製品は、自民党以上の支持を集めそうです。
本エントリーで、「待ち遠しさ」と購買意欲について考えさせられました。
No.1656 投稿者 : siowulf 2005年09月16日 11:43
Today戦略を行えないメーカーは、自分の製品に自信がないことを暗に示している気がします。
情報を小出しにして、みんなの反応を伺ってるのではないでしょうか?
製品の方向性が間違っていて、今日から買えますと言ったのに全然売れなかったら、悲しいですね。
No.1677 投稿者 : るなー 2005年09月21日 13:47
初めまして。コラムを面白く読ませていただきました。
アップルが上手いのは、Today戦略が販売店も巻き込んだ販売方法ということもあると思います。つまり、販売当日まで秘密という情報を販売店と共有することで、メーカーと販売店の一体感、連帯意識を出す効果です。
発売日まで延々情報を小出しにされると、販売店とユーザーの間に情報の差はなくなってしまいますが、Today戦略では店側のほうがユーザーより情報を持つことにより、販売店スタッフのモチベーションを上げる効果もあるかと。
大体物事って表立ってやるよりも、秘密にやる方が楽しいですしね。(ジョブズのやり方はMac開発の頃からそうでしたが)
日本メーカーの情報を小出しにするやり方は、10万円以上する冷蔵庫やテレビなどの家電製品ではあれこれ検討する時間が必要ですから有効でしょうが、2、3万円の趣味的な機器では、購買意欲が盛り上がったときに検討する間もなく買わせるほうが確かに戦略として理に適っている気がします。
No.1728 投稿者 : CK 2005年10月04日 22:03
●kazz7さん
こちらこそいつも楽しく拝見しております。ありがとうございます。
アクセス数ですが、今回は「楽画喜堂」さんの威力がそのまま流れ込んでいった
ものと思われます。楽画喜堂さんのパワーは毎度のことながら強烈です(*´Д`*)
●三戻さん
やはり波が来ましたね~!
この破壊力には本当に恐れ入ります。
●ystさん
なるほど、おっしゃるとおり、むしろ「プロの記者さん」相手のほうが有効に働くかもしれませんね。
如何に衝動的な(勢い任せの)文章を書いてもらうか、というのがマーケティング戦略として
重要なのだとしたら、プロの記者さんを「1人の熱狂的な消費者」に引き戻すような
舞台セッティングを考えることが一番なのかもしれません。
> ていうか、WalkmanBeanはどーなったんだ?
私はすっかり忘れていました。('◇')ゞ
●もなりーさん
確かに情報が漏れる場所はいくらでもありそうですね。
Appleもときどき、部品調達元の動向から新製品を推測されたり、
ファンサイトが謎の情報源を使って新製品予測をしていたりしますが、
もろバレな事例が皆無なのは確かに不思議です。(・ω・)
●iPod ニュースさん
ご覧頂きましてありがとうございます。
デジモノの情報がご入用のときはまたお立ち寄りくださいませ。ノシ
●ゴハァさん
ありがとうございます~!
●ystさんふたたび
AppleのiPod nanoが大量販売可能な在庫生産を終えるまで隠し通せたのに対して、
SonyがAシリーズの企画を隠し通していたのは試作品の生産段階までですので、
その難易度は結構違うような気がします(;・▽・)
大量生産をするにはサプライチェーンを取り巻く部品業者などにも大量の発注が飛び交って非常に目立つ
ハズですので、その段階でも隠匿にトライするかどうか、なかなかシビアな選択になりそうです。
●Keizoさん
え"、Macはサポートしているハズ・・・と思ったのですが、もしかしてMacOS 9.xということでしょうか。
MacOS 9.xのサポートはiTunes2.xまでなのですね(´・ω・`) Mac使いではない私は今初めて気が付きました。
●月さん
おそらくはSonyのほうが「新iPodにぶつける」戦略を取ったのでしょうけど、
Aシリーズがここまで話題にならないとは、当事者は思ってもみなかったでしょうね~。
SonyのスティックはAppleを除く2番手争いとしてみると十分な成果を挙げているように
見えますが、それでもiPodのような熱狂の嵐を起こすには至らないように見えます(;´~`)
●siowulfさん
確かにToday戦略は企画外れという大きなリスクも伴いますね。
近代生産では「余剰在庫こそが諸悪の根源」という考え方ですから、
生産した数を確実に売り捌く自信が無ければ、Today戦略はむしろ危険な選択・・・と。
●るなーさん
なるほど、とても面白い見解だと思います。従業員が「隠す楽しみ」を理解するかどうかがポイントですね。
それから価格が「衝動買い」レンジでなければToday戦略は効かない、というのも興味深い推測だと思います。
確かに10万円~数百万円の買い物(冷蔵庫~自動車など)の場合、そもそも買い替えにルーティンがありますから、
良いものが出ても衝動で飛びつけるとは限りません。なかなか難しいところですね。
ご自由にコメントください(=゜ω゜)ノ
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