多チャンネル時代のザッピング事情 - CM視聴率は何処へ行く

2005/07/24

日曜コラムです。こんばんは。しばらくネットのお話が続きましたが、
今回はデジモノらしくいってみましょう。ここ1~2ヶ月ほど、
 
 HDDレコーダによってCMの効果は低減するか?
 
という話題があちこちで見られました。その第一弾がこのニュース。
 
■HDDレコーダーによるCMスキップで“損失”540億円
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0505/31/news016.html
 
NRIが発表した調査結果では、HDDレコーダの世帯普及率が 11.9%
CMの平均スキップ率は 64.3%、そして録画消費率が 34.2%
ここがちょっと間違えやすいというか、語句が適切でないような
気がするのですが、録画消費率とは、
 
 (HDDレコーダに録画して見る時間)/(TVを見る時間全体)
 
という割合を示しているそうです。これらを掛け合わせると、CM全体の 2.6%
約540億円ぶんの広告費が吹っ飛んで いる、という見方になります。
 
このNRIの発表から1ヶ月後、今度は電通が カウンターパンチ を試みます。
 
■電通、デジタルレコーダがテレビ視聴に与える影響を調査
-「デジタルレコーダはテレビへの接触機会を増大させる」
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20050719/dentsu.htm
 
こちらの主張でポイントとなるのは主に2点あります。
現在の「視聴率」の仕組みは、録画視聴率を考慮していない数字で
ライブ視聴率のみを扱っているため、HDDレコーダに於けるCMスキップ率が
CM市場に対して「損失」であるというのは誤解である、という主張が1つめ。
 
そしてもう1つは、CMスキップが好きなハズのHDDレコーダ所持者は、
実は非所持者よりも 「CM認知率」 が高いという調査結果の提示です。
情報感度の高いユーザは、HDDレコーダを購入してCMスキップをしてしまう率も高い
かもしれませんが、それ以上に、TVを見る率も、内容をしっかり見ている率も高く、
CMに触れる機会が多い 優良顧客 だ、というワケです。
 
両者の主張をどのように捉えましょうか? まずその前に、調査というものは
「ためにする」もの であるということを確認しておきましょう。
 
■2004/11/27 [「広告でもあり知識でもある情報」との付き合い方(後編)
「広告でもあり知識でもある情報」との付き合い方(後編)]
 
電通がCM擁護に回るのは言わずもがなですが、ではNRIの調査はなぜ出てきたのか、
こちらもTV-CM以外の広告チャネルを販売したい何かしらの企業が関係していると
考えるのが普通です。そういう戦いなのだと思うと、いろいろ楽しめます(何が)。
 
この2社の主張を眺めていると、どちらかと言えばNRI側のほうに分があるように思えます。
 
電通側の1つめの主張は確かに理に適っており、2兆円規模のTV-CM市場は、録画再生を
含めないライブ再生のみを計算しての効果ですから、NRIの計算は「2兆円+α」の「α」の
部分にあたる 「録画再生広告市場」 に対してのみの「損失」という見方はできます。
 
しかし、その一方では今後、NRIのいう「録画消費率」がHDDレコーダによって急上昇
するという予想もまた正しいでしょう。TVの総視聴時間が劇的に伸びることは考えにくい
ですから、録画再生時間が増えるということは、ライブ視聴時間が減る ことに繋がります。
 
スポーツなどのライブ性の強い一部の番組を除くと、それ以外の番組は次々と録画視聴側に
回されていきます。この状況では原資である2兆円のほうが侵食されることに異論はないでしょう。
すなわちTV-CM業界としては、録画再生視聴率をも含めた新しい市場規模 を提示して、
効果が減っていないことをスポンサーに説明する必要があります。そこにはどうしても、
録画再生視聴率とCMスキップ率の強い関係性という要素が立ちはだかってくるワケです。
 
 
さて、前置きのほうが長くなってしまいましたので、本論のほうは短くまとめましょう。
私が今、気になっているのは、HDDレコーダによるCMスキップ率のほうではなく、
 
 多チャンネル化による「ザッピング効率化」のほう
 
なのです。CM市場にとって脅威になるのはむしろこちらなのかもしれません。
 
「ザッピング」とは、TV視聴中にチャンネルをパチパチと頻繁に切り替えること。
ご存知の通り、私たちはTV視聴中に
 
 CMになるとチャンネルを他局に変える
 
というザッピングを繰り返しています。そのためにCM導入のタイミング決定には
TV局は細心の注意を払っています。「このあと衝撃の事実が!」などの煽り文句も、
番組終了なのに「このあともまだまだ続きます」という半分ウソ文句も、すべて
 
 CMの視聴率を上げるための苦肉の演出
 
です。場合によっては民放各社がCM時刻を合わせることで、チャンネル切り替えの
意味をなくさせるという「自然談合」的な手腕も用いられることがあります。
 
しかし、数局の民放が寡占状態になっていた時代と違い、多チャンネル化の
時代になると、こうしたザッピング防止策は本当に意味を成すのでしょうか?
 
J-COM東京と契約している私の場合、地上波民放も含めて、視聴可能チャンネルは全部で
49チャンネル です。音楽専門系チャンネルが3、スポーツ専門系チャンネルが5、
知識情報系チャンネルが3、アニメ系チャンネルが3、ニュース系チャンネルが4、
それぞれにクオリティは高いことが多く、見る番組には事欠かない状況です。
 
そんな中で私は、地上波民放もちゃんと視聴しています。でも、CM視聴率のほうは
どうかと言えば、残念ながら 壊滅的な状況 です。「ザッピング視聴者」にとって、
 
 多チャンネル化は「CM視聴回避のためのリスクヘッジ」
 
として機能してしまうのです。私は地上波民放の番組を見ているときでも、
CMに入った瞬間に、チャンネルをケーブルTVの側に回します。そして
CMが終わる頃を見計らって、また元の地上波チャンネルに戻ってきます。
 
 「CMを見たら負けだと思っている。」
 
とでも言わんばかりのこうした行動の裏には、過去10年以上、
「CMを無理矢理見せるための施策にウンザリさせられてきた歴史」があり、
番組中のイイ場面に意地悪く割り込んでくるCMに対する嫌悪感があります。
 
多チャンネル化時代に於いては、全てのチャンネルが口裏を合わせてCM時刻を合わせる
こともできません。「CMになったら別のチャンネルに回す」ということを繰り返せば、
原理的に CMを一度も目にすることがないまま TVを見続けることが可能です。
 
良く考えてみてください。「多チャンネル化」とは、
 
 ライブ視聴者にも「CMカット」を可能にする環境
 
だとは思いませんか? 今までCMカットとは、録画視聴者のみ、あるいはせいぜい
タイムシフト視聴者くらいまでを対象にした言葉であって、完全なるライブ視聴者
には届かない概念でした。しかし、多チャンネル環境でのザッピングは、
まさにリアルタイムでの完璧なCMカットが可能であることを示してくれるのです。
 
CM視聴率の問題が、HDDレコーダの問題だけではなく、多チャンネル環境の
普及状況にも大きく影響されうることがお判りいただけると思います。
多チャンネル化によって、
 
 ある時刻に於ける「CMではないチャンネル」が存在する確率
 
は、100%に近づいて いくのです。こうしたザッピングCMカット族の増加は、
放送事業者にとって、HDDレコーダと同じくらい頭の痛い問題となりうるかもしれません。


2005/07/24 [updated : 2005/07/24 23:59]


この記事を書いたのは・・・。
CK@デジモノに埋もれる日々 @ckom
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▼ はてなブックマークのコメント ▼

J2kawa 2005/07/25
素晴らしい洞察
shidho 2005/07/25
ザッピングが一瞬で出来るならその通りなんだけど。
tks_period 2005/07/25
思うところがある。
pho 2005/07/25
CMを見たら負けだと思っている感覚は良くわかる
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▼ コメント ▼

No.1995   投稿者 : マキっち   2006年1月 9日 12:43

とても勉強になりました!(^-^*)


No.17672   投稿者 : デンパク嫌い   2008年1月14日 15:24

とても参考になりました。メディアについてのデーターはメディアの手前味噌が多いので信用できるものは先ずありません。
コマーシャルカットについては私自身はリモコンなどの機械に頼るのでなく、自らの肉体が勝手に進化してくれました。CMが始まると、先ず視線が画面から離れます。同時に聴覚がCMの叫び声を聞こえないようにし、あるいはその意味を全く理解しないような状態に脳がなります。先日も女房の好きな「ゴチバトル」を食事中ずっとつき合わされましたが、後で、料理やジョークは思い出せるのですが、スポンサーが誰だったか全く微塵も思い出せない成果を上げました。元々テレビのCMと言う宣伝方法があまりフェアーな感じがないのではないでしょうか。テレビそのものもそろそろ根本から見直す時期に来ているように思います。



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