広告とクチコミが織り成す「ポジティブ/ネガティブ」の綱引き合戦

2005/05/29


「クチコミ」
 
あやふやであり、しかし時に強烈な威力を発揮する情報伝播手段です。
「クチコミ・マーケティング」なんて簡単に言いますが、これほど
望んだ方向に制御することが難しいメディアもないでしょう。
誰もが味方につけたいと思っていて、しかし、
 
 敵に回るくらいならいっそ無くなって欲しい
 
とすら思うメディア、それが「クチコミ」です。
 
小林Scrap Book」さんで最近こんなエントリを拝見しました。
 
■小林Scrap Book「私たちはどれだけ口コミを参考にしているのか?」
http://blog.heartlogic.jp/archives/000604.html
で、ふと自らを省みたとき、自分はどれくらい口コミの影響を
受けているだろうか。ここ1年ぐらいの買い物を振り返ってみた。

実際にクチコミが主なきっかけとなって発生した購買行動なんて、どの程度
あるのだろう、という問題提起です。このエントリでのご本人のスタンスは
クチコミ否定/肯定云々ではなく、思い当たるものをリストアップしてみよう
というお話でした。トラックバックも含めて、みなさんがどんな購買に
クチコミを活用されいているのかを読んでみると面白いでしょう。
 
 
さて、上記の小林さんも含め、
 
「クチコミが主たる要因となって発生した購買って、案外と少ないよね」
 
と感じておられる方は多いかと思います。
 
しかし、よくよく考えてみるとこれは当然のことかもしれません。なぜなら、
超ポジティブ (そんな野球チームがあったな・・・)なウリ文句というのは
既存の広告チャネル(TV、ラジオ、新聞、雑誌など)から大量に溢れ出している
からです。そうしたオススメ情報の量たるや、人々をうんざりさせるに十分です。
 
私たちがクチコミから受けたい情報の最たるところは、そうした超ポジティブ・
マーケットに相対するところの、
 
 「調整」という役どころとしての「ネガティブ情報」
 
です。勿論クチコミでもポジティブ情報が流れること自体には何ら問題はありませんが、
ポジティブ情報だったら巷に腐るほど流れていますから、あまり注目されません。
 
では、この調整役としてのネガティブなクチコミ情報は、すなわち 「購買喚起」
ではなく 「購買抑制」 にのみ影響を与えるということでしょうか?
いいえ、私はそうは思いません。話としては同じことかもしれませんが、
私は「購買抑制」と「購買喚起」が直結しているという意味で、
クチコミが購買行動に大きな影響を与えていると考えています。
 
それは多くの市場に於いて、消費者は 複数の商品を比較検討 しているためです。
 
ポジティブ情報は、TV、ラジオ、新聞、雑誌などが、MAXまで振り切った
ポジティブ情報として流されますが、いざ比較段階になると「全部MAX」で
あるが故にあまり参考になりません。そこで登場するのは、クチコミによる
ネガティブ情報の流通量による消去法的な購買選択行動です。
 
「○○はイイと思っていたんだけど、
 良く見ると一番大切なアノ機能がないじゃん!」
 
というのは、数万円~数百万円という大モノの購入検討で慎重な吟味をするとき
などに良く気が付くお話です。当然のことながら、広告を受けている事業体は、
広告主をあからさまに悪く言う情報は書けませんので、こうしたネガティブ情報は、
ほとんどの場合、クチコミの世界にしか流通できません。しかし購買行動に於いては、
「どれを選んだか」は、すなわち 「どれを選ばなかったか」の裏返し
です。つまり、「A社のデジカメがいま一歩である」という理由が、そのまま、
「B社のデジカメを購入する動機付け」になりえるのであります。
 
ところが、ところが、です。
 
あとから振り返ってみて、その商品を「買いたくなった」理由とは何でしょう?
と問われた場合、あなたは「クチコミに影響を受けて購入した」と感じるでしょうか。
おそらくそうは思わないハズです。クチコミは確かに参考にはなりました。しかし、
「クチコミで購買意欲が高まったか?」と言われると、そういうケースは稀でしょう。
ほとんどの場合は、広告チャネル(雑誌記事など含む)から購買意欲を喚起され、
 
 その購買意欲がホンモノかどうかを、クチコミ情報で確かめた
 
というパターンに乗っているのではないかと思います。つまり、多くの場合、
クチコミは「初期衝動」を促すためではなく、購買直前に至るまでの「ハードル」
として人々の購買成否に影響を与えることになる、というのが私の考えです。
 
「欲しい」という衝動は、超ポジティブな広告チャネルによって喚起されます。
しかし、これでは「欲しいもの」だらけです。広告チャネルの情報を1つ1つ
真に受けていたら、それこそ 札束が何ケースあっても 足りません。
 
そのため人々は、次のステップとして「欲しいものの中からどれを選択するか」
を考えます。製品評価に積極的に差を付けるためにネガティブ情報を探すのです。
 
 ・信頼に足ると思える「ネガティブ情報」が出現した
 
という材料は、初期衝動を減衰させる効果をもたらし、
 
 ・信頼に足ると思える「ネガティブ情報」がなかなか出てこない
 ・「ネガティブ情報」を、信頼に足ると思える情報が打ち消した
 
という材料は、初期衝動をより確固たるものにする効果をもたらします。
つまり マイナス方向の波に如何に耐えうるか、というテストが
クチコミによって行われ、それが結果的に購買行動を左右しているのです。
 
一方、クチコミでも「購買喚起」つまり初期衝動を引き起こすケースが無いかと
言えば決してそんなことはありません。クチコミによって新しい商品を知り、
購入意欲をそそられた経験をされた方も多いでしょう。しかしそれらは、
初期衝動を起こさせるだけの規模を持った広告を「打つことができなかった」
ニッチな商品のときだけに起こる現象 だと考えるべきかもしれません。
 
上でも述べたとおり、クチコミでもポジティブ情報は伝播するのです。しかし、
広告を打てば超ポジティブ情報がすごい勢いで強制的に伝播するのですから、
「一定規模の広告を普通に打てる商品」に対するポジティブなクチコミは
その大量の広告の中では大きな存在感を示すことはできないという具合です。
 
すると、購買者に影響を与える、存在感のあるクチコミ情報とは、
 
・「大量のポジティブ広告に対する、カウンターとしてのネガティブ情報」
・「ポジティブ広告が広まらない状況に於ける、希少なポジティブ情報」
 
のいずれかに分類されると考えられます。そして、最終的な購買行動は、
 
 「ポジティブ刷り込みによる 購買意欲の量 」と、
 「ネガティブ検証による 購買取り止め量 」の差分
 
で決まることになります。そう考えれば、
 
 クチコミによるネガティブな検証への耐性
 
というファクタが、ポジティブな広告の戦略と同じくらい、マーケティング
に於いて非常に重要なポイントとなることがお分かり頂けることと思います。
 
「人の口に戸は立てられない」 という言葉の通り、クチコミを制御しよう
という試みは非常に難しいチャレンジであり、多くの場合は失敗に終わるでしょう。
それよりも、クチコミを 自らの映し鏡と考え、クチコミの情報に敏感に反応して、
クチコミ検証への耐性を増すために商品の何処を改善していけば良いか、という
 
 生産活動へのフィードバックとして
 
クチコミを活用するのが、企業としては最も健全な手段となるハズです。
自らの作り出した商品に対するクチコミの動向をつぶさに観察・把握し、
新しい商品を出すごとに、クチコミ検証への耐性が増すような生産活動を続ける
ことができる企業ならば、それは自ずと市場から支持される存在になるでしょう。
 
 
最後にもう1つ。実はクチコミ情報は、消費者自身が強い興味を持たない分野
に於いてはあまり役に立ちません。これは消費者自身の知識量に関係しています。
自分自身にそれなりの知識が無いと、口コミの信憑性を測ることができないのです。
 
2ちゃんねるで「ウソをウソと見抜けない(ry」という名言があるように、
情報の確度をある程度判断できない場合、クチコミ情報はどれもこれも
「怪しい情報」であり、それ以上でもそれ以下でもなくなってしまいます。
 
このようにクチコミ情報が「怪しい情報」から「信頼に足る情報」に変わるまでの
認識変化のメカニズムについては、また機会があればどこかで考えてみたいと思います。


2005/05/29 [updated : 2005/05/29 23:59]


この記事を書いたのは・・・。
CK@デジモノに埋もれる日々 @ckom
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Kazabana 2005/05/30
ネガティブ情報はポジティブ情報の十倍伝わりやすい、という事を忘れるべからず。
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