マスが全てだった時代から、ニッチが普通になる時代へ(前編)

2005/03/13

(この記事には 前編 と 後編
マスが全てだった時代から、ニッチが普通になる時代へ(後編) があります。)
 
■梅田さんの「My Life Between Silicon Valley and Japan」から、
 ・ロングテール論について
 ・再びロングテール論について
の記事では、ロングテール論 が「個別のニッチの価値が、マスの価値を追い越す」
という意味ではなく、ニッチの「集積」 がマスの「集積」より大きくなる、そして
ネットによってニッチの集積がローコストで出来るようになったことが
ロングテールの価値をようやく現実のものにした、というお話をされています。
 
■浅倉さんの「浅倉卓司@blog風味?」から、
 ・ロングテイル論のうさんくささ
 ・ロングテイル論の2つの要素
の記事では、ロングテールを拾えるようになったことで、今まで手を付けられなかった
規模の市場が新たに登場したことは認めるが、その集積が 「既存のマス市場
よりも大きい」 という仮定が本当なのかどうか、疑問を持っておられます。
 
ロングテール論については、Amazonなど実際のビジネスの売り上げなどについて
「ニッチの集積がマスの集積を上回る」実例を示したりもしているようです。
ただ、ロングテール論を一般法則として当てはめるには、対象となるドメインに於ける
「ニッチ集積の容易さ」について論ずる必要があるため、注意する必要があるでしょう。
 
ここでは少し違う角度から、このロングテール論を考えてみたいと思います。
 
私は以前のエントリ「報道メディアから「対話メディア」への重心移動
報道メディアから「対話メディア」への重心移動」でも
述べたとおり、マスとニッチの関係について非常に強い興味を持っています。
そして先のエントリでも、「これからの個人は、マスを深めるためではなく、
ニッチを深めるために 時間を使う」という多少大げさな仮説を立てました。
 
これが意図したところを、もう整理しなおしてみたいと思います。
 
私は 「膨大な種類のニッチ」 がマスよりも重要な存在になると思っています。
でもそれは「小さなニッチをきめ細かく拾えるようになったから」ではなく、
ニッチの成長度と、マスの成長度が 同じではないから だと考えています。
 
短期的に見るとパレートな状態が急激に崩れているとは言えないものの、
長期的に見た傾向からすると、パレートな状態は徐々に崩れていく方向に
向かっているのではないか、と言い換えても良いかもしれません。
 
あまりにも暴論に見えますか? 私自身も、まだあまり考える時間を取って
いませんので、後になって「やっぱり違った」という話になるかもしれませんが、
今はとりあえず、現時点で考えていることを文字にしておくことにしましょう。
 
話を判りやすくするために、スケールフリー・ネットワークについて考えてみます。
スケールフリー・ネットワークとは、コネクションが「平等に」「ランダムに」
生成されるのではなく、既にコネクションを多く持っているノードのほうが確率高く
新規コネクションを獲得できるような不平等性を持ったネットワークのことです。
 
ごく簡単なモデルで言えば、既に3個のコネクションを獲得したノードAと、
1個しか獲得していないノードBがあった場合、新しいノードCは
A→75%、B→25%の確率でコネクションを張ろうとするということです。
ごく一部の有名なノードは更に有名になり 、その他大勢はいつまで
経ってもその他大勢のまま、という現実世界で良く見る光景がモデル化されます。
(「ノード=Webサイト」と置き換えながら読んでみるとよく判ります。)
 
ごく一部の有名なノードは 「ハブ」 と呼ばれます。スケールフリー状態に於いて
ネットワーク中に影響を及ぼす最も効率の良い方法は、「ハブ」を見つけて
抑えることです。「1個のノードが100のコネクションを持つ状態」と、
「100個のノードが各々1個のコネクションを持つ状態」では、どちらも影響力は
同じですが、前者は1の力で制御できるのに対して、後者は100の力を掛けないと
制御できません。だから 「一部のマスの影響力が強い」 ということになります。
下図のような「べき法則」に従ったグラフを見ると傾向が良く判るでしょう。
 

ロングテール論は、同じ土俵でありながら、違う最善手を指摘するものといえます。
100の力を掛けないと制御できなかったものが、コンピュータの自動処理によって
100→30→10→5くらいの力で制御できるなら、今まで 無視するしかなかったニッチ
にもっと価値を見出せるのではないか、というのがロングテール論の本質といえます。
 

新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く
アルバート・ラズロ・バラバシ
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なお、スケールフリー・ネットワークについては、アルバート・バラバシ著の「新ネットワーク思考」が
バイブル的存在になっていますので、ご興味のある方は是非ご一読ください。(右図)
 

ここからようやく本題に入ることにしましょう。
 
ネットワークがスケールフリーな状態を形成する条件とは何でしょう?
ネットワークのコネクションは、コネクションによって得られる ゲイン と、
コネクションの維持に掛かる コスト を見比べて張られることになります。
 
第一の制約条件は、「コストパフォーマンス」 です。
コストを上回るゲインが得られるコネクションは維持する価値がありますが、
そうでなければコネクションを維持する意味がありません。
 
第二の制約条件は、ノードごとの 「最大許容コスト」 です。
コストパフォーマンスで見るとプラス換算なコネクションが、たとえ数万あった
としても、人間の時間は有限ですから、全てを維持できるはずがありません。
つまりプラスなコネクションの中でも、特にコストパフォーマンスの高いものを
「選別」して、選ばれたコネクションだけを管理することになります。
(ブックマーク、RSS、アンテナなどを想像して読んでみてください。)
 
スケールフリーネットワークでは、新しいコネクションが出来るとき、既に多くの
コネクションを保持しているノードほど、新規コネクションを獲得できる確率も高い
と言いました。ここで良く考えて見ましょう。このスケールフリー化のプロセスは、
個々のノードが許容できる コネクション維持コストの間口 が狭ければ狭いほど、
より厳しい「べき法則」に従うことになります。Webサイトでも、どれか1つだけを
選べといわれたら、好きか嫌いかに関わらず、読売、朝日、毎日あたりの大手新聞社
のサイトを選ぶしかないでしょう。しかし2つめを読んでも良いのであれば、次は
impressのサイトを選ぶかもしれません。では3つめは? 4つめは何処にしますか?
コネクションを100個保持できるのであれば、ブログサイトも範疇に入ってきます。
 
もうお気づきでしょうか。個々人の最大許容コストは人間の時間ですから有限ですが、
一方で個々の コネクションの維持コスト のほうは、どんどんと低下しているのです。
私たちは以前では考えられなかった大量のコネクションを、平然と保持 し続けているのです。
(ブックマーク、RSS、アンテナなどを想像して読んでみてください。)
 
後編
マスが全てだった時代から、ニッチが普通になる時代へ(後編) では本題の、マスの影響力低下とニッチの躍進、そのメカニズムを考えます。


2005/03/13 [updated : 2005/03/13 17:30]


この記事を書いたのは・・・。
CK@デジモノに埋もれる日々 @ckom
ブログ「デジモノに埋もれる日々」「アニメレーダー」「コミックダッシュ!」管理人。デジモノ、アニメ、ゲーム等の雑多な情報をツイートします。




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▼ はてなブックマークのコメント ▼

kasedac 2005/03/14
The Long Tail論(1)
hihi01 2005/03/24
すばらしい!すばらしい!すばらしい!非常に的確な考察です。
Genpaku 2005/03/29
今まで 無視するしかなかったニッチ
keisuke_yamane 2005/10/16
Long-tail論
cess 2006/07/14
2005年3月。いずれにせよ自分には10回くらい読み返してもピンとこないと思う。
fujikumo 2006/08/14
<個々の コネクションの維持コスト のほうは、どんどんと低下している…私たちは以前では考えられなかった大量のコネクションを、平然と保持 し続けているのです…ブックマーク、RSS、アンテナなど>
mind 2007/03/04
――グローバル化の大航海時代。 /コネクション数には全ノード数が「物理限界」 →指数なマスは遅かれ早かれ頭打ち、ってネズミ講破綻!? 最後はアフリカみたいに比較的不毛な植民地を分割競争。
kokogiko 2008/11/28
図表まで交えた、ロングテール論の論理的分析。
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